Now Loading...

Now Loading...

パオ・チョニン・ドルジ監督からの回答

2021年5月8日(土)にパオ・チョニン・ドルジ監督のオンライントークイベントを予定しておりましたが、感染拡大の現状を鑑み、中止といたしました。
皆さまから事前にいただいたご質問に、監督から回答が届きましたので、ぜひご覧くださいませ。

Q. 次期、村長はミチェン青年に決定なのでしょうか?

ミチェンは私が作った架空の人物です。私にとって、彼とセデュはブータンの田舎の若者の代表です。ブータンの知恵と伝統に導かれている人たちです。彼らは、ウゲンが代表するブータンの都市部の若者の対極にいて、ウゲンがルナナにいるときに、必要なものを見つけられるように導いてくれました。架空の世界では、そうですね、ミチェンのような人が最終的にはルナナの村長になるのでしょう。村長のアジャは、若い頃はミチェンみたいだったでしょうね。

Q. ロケ地の人達は、この映画をみることができましたか?もし未だ観ていないなら、今後そのような機会を作る事を考えていますか?

映画の撮影が終わりルナナを去る時に、「完成した映画を上映しに村に戻るよ」と約束しました。映画の最後で子ども達が踊りを踊っている谷で映画を見せるつもりでしたが、コロナ禍でそれができなくなってしまいました。私たちはまだ映画の上映をする機会を待っています。そのために発電機をルナナに置いてきたのですから。ルナナでこの映画を上映することで、この映画の一つの円が完結すると思っています。コロナ問題が収まったら、上映をしたいと願っています。
村の人たちは、この映画が世界中で人気だということは知っていると思います。

Q. 教育とはなんでしょうか? 山奥にて、外国人に会うこともないのになぜ英語を勉強するのか?教育を受けることとは、都会に出て、お金を稼いだり、よりよい生活をするため。山の奥にいて、無知でも、幸せではないだろうか。

教育の定義は人それぞれだと思いますが、私にとっての教育とは、子どもたちが思いやりのある、回復力のある、賢明な人間に成長するための機会を与えることだと思います。自分が住んでいる環境と一体化した存在になるためのもの。
ブータンでは、どこの学校でも英語で授業が行われています。これは、ブータンの言語が世界的に見て非常に小さく、少数にしか使われていないことを政府が認識したからです。ゾンカ語(ブータンの言葉)を話す人は世界に75万人ほどしかいません。そこで政府は、国民が現代社会で生きていけるようにするために、すべての学校を英語で教え、国語であるゾンカ語を第二言語として教えることにしたのです。これは非常に賢明なことだと思います。なぜなら、私のような人間が映画を作り、それを世界と共有することが可能になったからです。

Q. 監督と、上下世代間のジェネレーションギャップがあれば教えてください。

どんな社会でも、若い世代と年配の世代との間にジェネレーションギャップという問題を抱えていると思います。映画の中でそれを表現しようとしましたが、私にとってウゲンは、ブータンの若い世代の典型的な例です。彼は自信に満ちていて、教育を受けていますが、幸せとは何かを定義する西欧諸国の考え方に大きく影響されています。これは、彼の祖母や村長のアジャのような人たちの人生観と大きく異なります。

Q. ルナナの標高では、映画にあるような服装では寒いのではと思うのですが、実際はどうなのでしょうか?

実はとても寒いのです。ルナナの人々のほとんどは、寒い中での生活に慣れてしまっているのだと思います。私が初めてルナナに行ったのは2月だったのですが、とても寒くて、あちこちに雪や氷があったのですが、子どもたちはとても薄着でした。私はあんなに着込んでいたのに!と思いました。 子どもたちは、薄着でも快適に過ごしていました。聞くところによると、彼らは靴を持っていなかったそうです。冬になるととても寒くなり、氷がたくさんできると言っていました。なのでヤクがフンをすると、すぐに走っていって、裸足のまま、暖かくて気持ちのいい新鮮なヤクのフンの中に足を突っ込んだそうです!もちろん、今はその必要はありません。

Q. ルナナ村に今先生はいるのですか?

はい、ルナナには先生がいます。彼は7年ほど前からそこにいて、ルナナでの生活をとても気に入っているようです。彼は1期目を終えた後も、そのまま残っています。映画を作ったときにも大変お世話になりましたし、今でも連絡を取り合っています。

Q. ブータンに地球温暖化の影響はありますか?

地球上で温暖化の影響を真っ先に受けるのは、ヒマラヤの高山だと思います。ブータンには多くの氷河があり、それがインドやバングラデシュなどの亜大陸の主要な川に流れ込んでいます。すべての氷河が驚くべき速さで溶けているのは、とても悲しいことです。氷河の融解は、ヒマラヤの湖の氾濫を引き起こしています。数年前、ルナナの湖があふれて崩壊し、多くの家が流され、ルナナでは多くの人が亡くなりました。ルナナにおける地球温暖化の問題は非常に重要であり、このテーマだけで1本の映画を作ることができたのですが、本作では、ミチェンが氷の獅子がこの世界から消えてしまうことについて話している、あの短いシーンだけを入れました。

Q. 教育、グローバリズムが結果的に村から若者を都会へとやってしまい、村が消えてしまいませんか?

ルナナはこれからもずっと存在し続けるでしょうが、私たちが心配しなければならないのは、生活様式やルナナのオリジナルストーリーが、私たちの世界から徐々に消えていくことです。ルナナは日々、現代社会とのつながりを強めています。それに伴い、医療や教育などの近代的な設備も充実してきましたが、それ以外の面での生活が失われつつあります。私が映画の撮影を終えてルナナを離れたとき、私たちの代わりにいたのは、3Gネットワークを導入するために来た通信会社の人たちでした。今では、ペム・ザムがtiktokのビデオを送ってくれます...。これは嬉しいことですが、無邪気さが失われているので悲しいことでもあります。ブータン政府は今、ルナナに道路を建設していますが、そうなるとこれらの美しい物語は永遠に失われてしまいます。だからこそ、手遅れになる前に彼らの物語を伝えなければならないのです。